暮らしの中での思い事をつづります


by carmdays
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心の旅路~灰色の空とオレンジの灯

 空を見上げると、冬の空。雨の降る気配で、空一面に雲がかかっている。そんな灰色の空を見上げていると、昔見たある光景を思い出す。灰色の空に浮かぶ、オレンジ色の灯を。

 無職だった頃は、毎日ファミリーレストランに通っていた。今でも足しげく通うのだが、ある一時期は朝も行き、夜も行った。お茶を飲みながらそこにいるだけで気持ちが静まり、考えをまとめることができたからだ。ずっと家に居ると、誰とも会わず一人で居ることで気が滅入り、気が落ち着かず居てもたっても居られなかった。

 ある日のことだ。ブログやSNSを通して知る周りの人たちがあまりに快活に暮らしていて、わたし一人が取り残されているという思いを強く抱いたことがある。いや、無職の時はずっとそうだった。

例えば、みんなには仕事があるが、わたしにはないだとか、みんなには暮らしを楽しむ余裕があるが、わたしにはないとかである。そんな違いの一つひとつにひどく落ち込み、重い足を引きずってその日もファミリーレストランに行った。

 外は雨降りで、寒くてダウンジャケットのチャックを首元まで引き上げないといられなかった。マフラーを巻きつけ、手袋をし、ニット帽をかぶって外に出た。吐息が白く、とぼとぼ歩きながら見上げる灰色の空はやけに重く感じた。せめて晴れてくれてたら良かったのに。思わずため息が出た。

店に着くと、いつも通り定席に座り、お茶を頼み、窓の外を見やった。傘をさした人が足早に通り過ぎていく。ただ目に映る景色を追いながら、いろいろと悩みは深く、その日もお金の事、未来の事、仕事や暮らしの事など不安は尽きなかった。次第に心が重くなり、抱えきれない不安に押しつぶされそうになった。先の見えない未来に、またひどく落ち込んだ。

そんな時だった。ふと見上げた灰色の空にオレンジ色の光が浮かんでいた。

え?もう一度見返すと、それは、テーブルを照らすオレンジのランプの光が窓に反射して映し出されていたもので、灰色の空に浮かんでいるように見えたのである。思わずその灯を見つめていると、灰色の空だからこそ尚一層光り輝いて見えるのだとわかってきた。冷たく重い灰色の空に浮かぶ、優しいオレンジの光。

「あったかい」そんな言葉が口をついて出た。

手元には温かいカフェオレが入ったカップが一つ。かじかんだ手に温もりを伝えてくれていた。外を見ると雨が降りしきり、厚い灰色雲。でも、窓ガラスにはオレンジ色の温かい灯がそっと優しく浮かび上がっている。たったそれだけの事なのに、わたしの気持ちはふっと軽くなった。たまゆらの温もり。それがわたしの気持ちを救いあげた。

昔、写真家の星野道夫はこう言っていた。「人は、その浅さで生きていけるのだろう」と。わたしは当時、確かに見えない未来に落ち込んでも仕方のない状況に身を置いていて、事態は実に深刻だった。明日をも知れぬわが身。オレンジ色の光を見たくらいで事態が変わるわけでもなかった。だが、灰色雲に浮かぶオレンジ色の光に見出した温もりに、たまゆらの幸福を感じた。それは確かに、心を一時救ってくれた。きっと、その光の中に、平穏なひと時を、本来のわたしに帰るひと時を、見出したからなのかもしれない。

人とは不思議な生き物で、苦しさの中にあっても見出す安らぎがあり、深刻な最中にいても感じる一時の至福がある。確かに、わたしはその浅さで生きていた。


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by carmdays | 2015-05-27 08:08